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約3年の間、柱に樹勢をつけるために枝を伸ばしていたのが作業前の姿である。 いいかえると、手があまり入っていない状態で、頭部が強く枝の内部はやや枯れ上がってきている。 この状態を蒸れるといい、外側外見では元気よく育っているように見えるのだが、鉢植えでは難かしい問題なのである(切り込みたくとも葉がないので追い込めない)。 もしこのまま数年おけば、混み合った下枝などは樹勢を落とし、枝枯れすることは間違いない。 作業は、スプレーガンを用い幹や舎利の清掃から始まる。 枯れ枝(古葉)などを取り舎利をよく見えるように出して、細部の検討をするためである。 細部まで汚れを落とし、舎 利などは、この時に石灰硫黄合剤を塗って、見どころ部分を明らかにしておくのも作業が判りやすくなる。 舎利の具合(流れや向き)がネズミサシの場合、樹形を見るのに大切な要素になるからである。 正面は作業前の角度からやや背後に、そして流れの方向に傾ける。 前にかがみすぎているので、それをやや背後に起こし、流れの方向は右なのでやや右に傾けている。 右流れは、神の方向にしたがい決定したものである。 現物のく新正面の角度Vが主に神の動きによる変化。 作業前の樹高は繁った状態で47鯏。 新正面を決定し作業にとりかかる前の予定の樹高は現在よりも数pほどコンパクトにまとめるという構想である。 イボタはモクセイ科。 低山によく自生樹がある。 山採りというと印象が悪いが、私有地で許可を受ければ簡単に手に入る樹種である。 手軽な樹で、ベテランも楽しんで作る本格的な小品樹である。 地味だが樹形を様々に工夫すれば一級品も可能。 渋味のある良い樹である。 花は花木とはいえないが、6月ごろに白い総状花がひょいひょいと飛び出して咲き秀逸。 鉢植え界で水蝋樹というのがイボタである。 古木になると荒れ方が面白く、比較的早く荒れ気味になるタイプもある。 古樹は初めて見る人には驚くほど味があり、なかには<イボ幹>のような荒れ方をする性もある。 つまりは本格的な鉢植え樹なのである。 樹勢は強い。 新梢は次々と伸び、これを鋏で切り返しながら作る。 鋏作りのお手本のような樹で、技術を得るにも最適。 鋏の入れ方で出来が違ってくるから、ベテランの人も熱中できるわけである。 作るイボタは多彩。 一点ごとに樹形が違い、仕上げの期間も早い。 畑上げの太幹樹でも4〜5年で仕上がる。 まず挿し木苗の作りから見ていくことにしよう。 挿し木}霊舞年。 根元の根の様子のちょっとした工夫や、曲付けにも注目していただきたい。 イボタは太りやすいため、細い曲付けでは後にその曲が消えてしまう。 それよりも、根元の根を特長ある状態にしておいたり(ゴツゴツ飛び出していても後に味になる)、足元の変化くらいで充分である。 イボタの小品はどうしても、ちまちまとまとまった模様樹になりやすい。 飽きのこない様々な樹形(独想的でよい。 例えば太幹でガクリと折れ曲がるような、誰にも真似のできないような樹形も面白い)を構想していただくと楽しいだろう。 畑上げ後5年。 16p。 太幹の模様樹。 その枝の様子。 鋏作りの感じがよく出ていて、趣味家向き。 枝の切り戻し方、枝の出し方、二岐に残す部分とギクギクと折れ曲がる1本残しの部分など、参考にしていただきたい。 鋏の入れ方ひとつで全く印象が異ってくる。 取り木のイボタは取り木も挿し木も簡単。 日当たりよく作り、水も肥料も好む。 取り木は5〜6月ごろが適期。 暖地では3月ごろからでも可能。 目的の位置に線をつけ、その下を幹の径の幅くらいに環状剥皮する。 ナイフで少し削り込むくらいが安全。 切り口には水苔がバーミキュライトを。 イボタはそれ自体地味なものである。 表現は難しいが、鉢の面白さや樹形の変化なども、長く楽しむためのポイントといえるだろう。 |